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会員紹介

栃木県農業試験場

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栃木県は意外と知られていませんが、日本有数の麦作県です。4麦(小麦、二条大麦、六条大麦、裸麦)の作付け面積および収穫量は、ともに北海道、佐賀県、福岡県についで全国4位を誇ります。

そのような栃木県の麦作を研究レベルで支えているのが栃木県農業試験場麦類研究室のメンバーです。当研究室では、新品種開発、新品種の栽培法開発、最近ではあらたな機能性を追求する研究など、寝る間も惜しんで取り組んでいます。

本館新築・試験地移設して「心機一転」麦研究

栃木県農業試験場は118年の歴史があります。現在の宇都宮市瓦谷町に移転してから44年になります。平成24年(2012年)、ご支援していただいている皆様のご尽力のおかげで研究本館が一新されました。

同じ時期に、これまで栃木市大塚町でおこなっていた麦類研究のほ場や研究施設を宇都宮市瓦谷町にそっくり移設しました。昭和49年(1974年)の南河内町(現在の下野市)から栃木市への移転以来の2度目の引っ越しでした。

「ほ場が変わるということは、これまで培った“勘”のようなものがそのまま通用しなくなって、苦労が多いですが、ここは心機一転、向こう20年、いや50年の新たな歴史を創るつもりで全身全霊を尽くします」(メンバー一同)

多彩な小麦品種がラインナップ

ゆめかおり.jpgのサムネイル画像

イワイノダイチ.JPGのサムネイル画像

一昔前は小麦といえば「農林61号」でした。収穫時期が遅く、耐倒伏性も劣っていたので、栽培しづらく、農家泣かせの品種でした。そうなると品質も悪くなり、実需者の評価は大変厳しいものでした。

このような状況を打ち破るべく、次々と新品種を登場させました。平成12年(2000年)にアミロース含量がやや低く、日本麺や菓子に向く「イワイノダイチ」を導入、続いて、平成14年(2002年)にタンパク含量が高く、醤油や中華麺に向く「タマイズミ」を導入しました。最近になって、平成21年(2009年)にタンパク含量が高く、グルテンの質が優れ、パンや中華麺に向く「ゆめかおり」、平成23年(2011年)にアミロース含量が通常で日本麺などに向く「さとのそら」を立て続けに導入しました。

これらの4品種は、「農林61号」よりも早く収穫できるなど、栽培性もかなり改善されているので、現在でも主力品種として県内に普及しています。

このように「農林61号」一辺倒だった栃木県の小麦畑は、日本麺、菓子、醤油、中華麺、パンと様々な用途に向くバラエティー豊かな品種が栽培されている畑に生まれ変わりました。

直近のデータ(2013年)を見ると、作付け面積は、「イワイノダイチ」が約700ha、「タマイズミ」が約650ha、「ゆめかおり」が約400ha、「さとのそら」が約850haです。ちなみに小麦全体では約2,600haです。

 

小麦作付け10,000haで完全復活を!

以前に比べると、活気が出てきた栃木県の小麦生産ですが、まだまだ課題が多くあります。その筆頭が品質と生産量の高位安定化です。

栃木県麦作の環境条件は意外にも多岐にわたります。品質と生産量の向上・安定化を目指すには、小麦の用途を十分考慮して、地域に適した品種の作付けや肥料の選定などが重要になります。

一例をあげると、品種によって求められる品質が異なるので、前作・地目や土性が重要になります。水稲作付け後のほ場は、蛋白質含量が低くなるので、日本麺用の「イワイノダイチ」や「さとのそら」が適します。一方、畑(固定した転換畑も含みます)は、蛋白質含量が高くなるので、醤油・中華麺用の「タマイズミ」やパン・中華麺用の「ゆめかおり」が適します。同じような理由で、土性の違いも大きく影響します。低地に比較的多く分布する灰色低地土は、蛋白質含量が低くなるので、「イワイノダイチ」や「さとのそら」が適し、台地に多く分布する黒ボク土は、蛋白質含量が高くなるので、「タマイズミ」や「ゆめかおり」が適します。

肥料は麦専用として異なるタイプが数種類あり、上記の“適地適作”を実践したうえで、様々な肥料を使いこなします。

 

課題は品質と生産量の高位安定

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現在、農業試験場では、品種特性を最大限に発揮させ、品質と生産量を高位安定させるために、「さとのそら」により適する肥料の開発を進めています。また、「ゆめかおり」の高品質化に不可欠な追肥作業の省力化技術の検証も行っています。

もちろん、品種の能力で品質と生産の高位安定化をはかるべく、次世代のあたらしい品種の開発にも着手しています。

30年前、栃木県の小麦面積は10,000haでした。品質のミスマッチで面積が一気に減少し、ここ10年来は2,500〜2,800haで推移しています。そのような中で、積極的に品種転換をはかり、ミスマッチはだいぶ解消されてきました。

 しかし、完全復活といえるのは、生産サイドと実需者サイドが今以上の信頼関係を構築し、10,000haに回復するときではないでしょうか。

初夏に黄金色の穂波が揺れる光景がいたるところで見られ、スーパーや外食店のうどん、ラーメン、パンなどに栃木県産小麦がふんだんに使われる近未来を目指し、農業試験場として、たゆまぬ努力を重ねていこうと思っています。

執筆:栃木県農業試験場 麦類研究室特別研究員 加藤 常夫